2024年12月2日(月)
主張
高額療養費制度改悪
全世代の不安増す上限見直し
大きな病気や事故で高額な医療費がかかったときの支えが高額療養費制度です。患者の自己負担に月ごとに一定の上限を設ける制度で、「もしもの時」の安心に欠かせません。
■早期の負担増提案
ところが厚生労働省は、社会保障審議会の部会(11月21日)に上限の引き上げを提案しました。現時点で引き上げ額は示されていませんが、「できる限り早期に」決めるとしています。
自己負担の上限額は収入に応じて決まり、現行では70歳未満では五つ、70歳以上では六つに区分されています。所得が高いほど上限額は高くなります。
例えば、70歳未満で年収約370万~770万円の人の窓口負担が30万円かかる場合、高額療養費制度によって支払いは月約8万7千円に、60万円かかる場合は約9万7千円に抑えられます。年収約370万円までの人の上限は一律で月約5万7千円です。
厚労省は引き上げの理由に、前回見直しを行った9年前と比べ「賃上げの実現」で世帯収入が増えたことをあげます。しかし実質賃金は増えるどころか、2012年に自公政権が復活してからの11年間に年額33万6千円も減ったのが実際です。他方、足元では物価が上がり生活苦が増しています。「賃上げの実現」は理由になりません。
厚労省は、患者負担を増やすことで国民の保険料負担軽減を図るといいます。
しかし、医療の進歩や高齢化で今後も医療費は増加します。保険料負担軽減のためには、患者負担の引き上げではなく、医療費への国の負担率を引き上げることこそ必要です。
財源は、大企業や高額所得者へのいき過ぎた優遇税制をただすことや5年間で43兆円にのぼる大軍拡の中止で賄うべきです。
政府は23年末に閣議決定した「全世代型社会保障構築の改革工程」に、少子化対策の財源として高額療養費の見直しを盛り込みました。しかし、思いがけず大病を患ったり事故に遭うことは、どの世代にも起こりえます。その際の自己負担が上がることは国民の不安を増大させ、少子化対策にも逆行します。引き上げは中止すべきです。
■治療ごとの設定に
生活苦が広がるいま、求められるのは上限額の引き下げ、特に低所得者への配慮です。現在、住民税非課税となるおよその目安は、単身の給与所得者の場合、年収100万円以下です。住民税非課税の人(70歳未満)の上限額は月約3万5千円で、この負担は重すぎます。厚労省自身、高額療養費制度を「セーフティーネット」と言っており、それにふさわしい金額設定が必要です。
重い病気ほど負担が重くなる上限額決定の仕組みも改めるべきです。また、上限が治療の総額ではなく月ごとに設定されているため、月をまたぐと上限が適用されない事態を改め、少なくとも、1カ月未満の入院・手術の場合は、総額に上限を設けるべきです。
長期療養の場合に特例が認められているのは血友病、人工透析の腎臓病、HIVの3疾患のみで、特例の拡充も必要です。
患者負担増でなく軽減を求める声を広げましょう。